企業の法務部や法務担当者の業務として、従業員が業務を遂行するうえで、法律的なミスや違反をしないように、正しい知識を伝えるという啓発活動があります。
具体的には、ビジネスに関する法律の基礎知識を法務研修などで伝えていきます。
法律の知識は専門的な用語も多いため、従業員に伝えるには、できるだけ分かりやすく、そして、当事者意識を持ってもらうことが重要になります。
そこで今回は、啓発活動の具体的な内容や方法について説明します。
研修でわかりやすく伝える
コンプライアンスは、日本語で『法令遵守』と訳されます。
法令とは、法律はもとより、社会規範や倫理などを含めたルールの総称で、ビジネスの場においても守らなければならないものです。
もし、自社の従業員が法令違反を起こしてしまった場合、顧客離れや社会的信用の失墜となり、結果的に、売上やブランド価値低下につながりかねません。
ケースによっては、行政処分や損害賠償請求などを受ける可能性もあります。
このような事態を避けるために、従業員は業務に関連する法律について学び、遵守しなければいけません。
各々で学ぶことは難しいため、法務部や法務担当者が啓発活動を行い、従業員に対し、法律に関する知識を伝えていきます。
多岐にわたる法務部の仕事において、重要な業務の一つが、『法的なトラブルを未然に防ぐ』ことです。
従業員への啓発活動は、トラブルを防ぐための必須業務といえるでしょう。
啓発活動は、主に社内研修という形で行いますが、一般的に、法律に関する専門知識の習得はハードルが高く感じられるものです。
研修を行う際にはできるだけ分かりやすく、噛み砕いて説明する必要があります。
たとえば、売買契約や貸借契約など、ビジネスには不可欠な契約や取引に関する法律は、『民法』や『商法』で定められています。
ただし、実際の条文をそのまま伝えても、法律の知識がない従業員にとって理解しがたいのが実情です。
法務部や法務担当者は、従業員が自分との関連性をイメージしやすいと思われる事例を出し、従業員が自らの業務に関係があることなのだと感じられるように伝え方を工夫しましょう。
他人事ではなく、自分事にしてもらうことが大切です。
また、法令を正しく理解せず、トラブルに発展してしまった場合、自分と会社がどのような不利益を被ることになるかまで、説明することが重要です。
自分の身に降りかかる可能性があるとなれば、従業員の学ぶ意欲も高まるのではないでしょうか。
特に、
・何をしてはいけないのか?
・何に気をつけるべきなのか?
この二つが明確になるよう心がけます。
もし、説明する範囲が広い場合は数回に分け、時間をかけて研修を行っていきましょう。
各部署に関連する法律をピックアップする
先に述べた民法や商法のほかにも、ビジネスにはさまざまな法律が関わってきます。
商取引関連部署の社員であれば、私的な独占や不当な取引制限を禁止する『独占禁止法(私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律)』や、訪問販売や通信販売に関するトラブルを防止するための『特定商取引法』が定められています。
細かいところでは、手形や小切手などに対するルールを定めた『手形法』や『小切手法』なども、知っておきたい法律です。
広報部やマーケティング部では、合理的な根拠のない誇大広告を防止し、商品の品質や内容などを偽って表示することを規制する『不当景品類及び不当表示防止法(景品表示法)』を中心に、知的財産に関連する『不正競争防止法』『特許法』『実用新案法』『商標法』『著作権法』なども学ぶ必要があります。
個人情報を取り扱う部署や担当者は、個人情報の保護を目的とした『個人情報保護法(個人情報の保護に関する法律)』の知識が必要です。
下請業者とのやりとりがある部署や担当者は、下請業者への不当な取り扱いを禁止する『下請法』も確認しておきましょう。
そのほか、人事部には『労働法』全般を、役員にはインサイダー取引を規制する『金融商品取引法』などを伝えていく必要があります。
自社の状況を見ながら、誰に、どのような法務研修を行っていくのかを決めるのも、法務部や法務担当者の大事な任務です。
以上のような法務研修を行うほかにも、ワークショップやルールブックの作成、社内報を活用した情報発信、個別面談など、啓発活動の方法はさまざまです。
大事なのは、持続可能かつ効果的な方法を選択することです。
自社の事業内容や、各部署の業務の一助となるような啓発活動を行っていきましょう。
※本記事の記載内容は、2021年12月現在の法令・情報等に基づいています。