企業同士の合併や買収を意味するM&Aには、事業の一部または全てを他社に譲渡する『事業譲渡』と、保有している自社株を買収会社に譲渡する『株式譲渡』があります。
株式譲渡では、実質的に経営権を他社に継承させ、売り手側は買い手側に株式を譲渡することで売却益を得ます。
将来的に、株式譲渡による事業承継が選択肢の一つになったときのために、発生する税金についても、しっかりと理解しておきましょう。
株式譲渡で発生する税金の計算方法
非上場の中小企業がM&Aを行う場合、事業譲渡よりも手続きが簡単で税金の負担が抑えられる株式譲渡が選ばれます。
株式譲渡を行う際、株式の売り手側である譲渡企業の経営者は、買い手側である譲受企業から対価を受け取ります。
経営権が譲受企業に移り、株式を手放した譲渡企業の経営者は、経営からリタイアすることになります。
対価を元手に、また新たな事業をスタートさせるのか、それとも悠々自適なセカンドライフを送るのかは本人の自由ですが、譲渡によってかかってくる税金のことを忘れてはいけません。
株式譲渡の対価となる株式の譲渡収入には、必ず『譲渡所得税』がかかります。
この譲渡所得税を計算するには、まず正確な『譲渡所得』を算出しなければいけません。
譲渡所得は、株式の譲渡収入から、取得費や売却手数料等を含めた経費を差し引くことで求めることができます。
取得費とは、個人である経営者が、企業から株式を取得する際に支払った払込代金や購入代金と手数料、購入時の名義書換料など、株式を取得するために必要な経費を指します。
また、売却手数料は、M&Aの仲介会社などに支払う仲介手数料のことで、これらの経費を売却収入から引くと、下記のような計算式で譲渡所得を算出することができます。
【計算方法】
譲渡所得=株式の売却価格-経費(取得費+売却手数料等)
譲渡益を得た際は忘れずに確定申告を!
譲渡所得税は、『所得税』および震災による復興財源に充てるための『復興特別所得税』(2037年12月31日までに生じる所得が対象)15.315%と、『住民税』5%で構成されており、合計で20.315%になります。
譲渡所得に、この20.315%を乗じた金額が、譲渡した個人が納める譲渡所得税になります。
そして、この譲渡所得が発生した際は、『確定申告』も忘れずに行わなくてはいけません。
株式の譲渡益のほか、土地・建物等の譲渡や山林所得などがある場合、確定申告時にほかの所得と分ける『申告分離課税』が適用されます。
つまり、譲渡益は給与所得や事業所得と区別する“副収入”と見なされるのです。
法人の経営者は、自社から給与の支払いを受けているので、通常は個人で確定申告を行なう必要はありません。
しかし、給与所得者であっても、以下の条件に該当する場合は、確定申告が義務となるため留意しましょう。
(1)年間の給与収入が2,000万円を超える
(2)1か所から給与の支払いを受けている人で、給与所得および退職所得以外の所得が20万円を超える
(3)2か所以上の事業者から給与等の支払いを受けている人のうち、給与の全部が源泉徴収の対象となる場合において、年末調整されなかった給与の収入金額と給与所得および退職所得以外の所得金額との合計額が20万円を超える
株式譲渡による譲渡益を得た場合は、たとえ年間の給与収入が2,000万円以下でも、給与所得および退職所得以外の所得が20万円を超える可能性があります。
一般的に、株式の譲渡益が20万円以下になることは少ないため、ほとんどの人が確定申告を行うことになるでしょう。
このときに気を付けたいのが納税の時期です。
譲渡所得税のうち、『所得税および復興特別所得税15.315%』は、毎年3月15日までに確定申告を行ったのち納税し、『住民税5%』は確定申告後に納付します。
うっかり確定申告を忘れたり、納税期限を過ぎたりしてしまうと、加算税や延滞税が加算されることもあるので注意が必要です。
国内においては、M&Aの件数も年々増加しており、その傾向は今後も続くと予想されます。
高齢化や後継者不足などにより、他社に事業を承継してリタイアを考えている経営者は少なくありません。
その際、多くの企業は株式譲渡によるM&Aを選択することになります。
将来に備えて、株式譲渡にかかる税金について、知識を深めておきましょう。
※本記事の記載内容は、2022年1月現在の法令・情報等に基づいています。