近年、一部の企業では、『コンピテンシー(Competency)』という言葉が注目を集めています。
コンピテンシーとは、ある業種において共通してみられる行動特性のことで、企業の生産性を向上させるためには、このコンピテンシーの考え方を人事評価や人材育成に取り入れることが有効だとされています。
またコンピテンシーの概念をモデル化した『コンピテンシーモデル』を作り、そのモデルの行動特性に沿う形で、社員の育成を進めていくことで、会社全体のレベルアップを図ることが可能になります。
今回は、昨今の社員教育に導入したいコンピテンシーモデルの活用法について、説明します。
コンピテンシーと生産性の向上の関係は?
コンピテンシーとは、1970年代にハーバード大学のデイビッド・マクレランド教授らのグループが研究した人間の行動特性のことで、今では人事評価や人材育成の場で活用されている概念です。
心理学を専門に扱うマクレランド教授は、アメリカの国務省から「外交官が開発途上国に駐在する際、学歴や知能が同レベルであるにもかかわらず、業績に格差が出るのはなぜか?」という内容の調査依頼を受けて、研究をスタートさせました。
そして、研究の結果、学歴や知能は業績に関係なく、むしろ各外交官の行動特性が業績の差を生んでいることが分かりました。
業績を上げている外交官には、『感受性が優れ、環境への適応能力が高い』『どんな相手でも人間性を尊重する』『積極的に人脈を構築できる』などの共通した行動特性があることが判明したのです。
マクレランド教授がこの行動特性を『コンピテンシー』と名付け、発表すると、アメリカでは社員育成・能力開発の一つの考え方として浸透していきました。
近年、コンピテンシーがこれまで以上に注目を集めている背景には、成果主義を導入する企業が増えてきたことがあげられます。
これまでの日本企業は年功序列型の人事評価を取り入れている会社が多く、会社に在籍する年数や、その人の年齢によって昇進や昇給が決まっていきました。
しかし、成果主義型の人事評価では、在籍年数や年齢よりも、仕事の成果で昇進や昇給が決まることがほとんどです。
仕事の結果はもちろん、その結果を出すためのプロセスや、その人の持っている能力も重要視されます。
社内の人材評価をより正確にするためには、行動特性を評価基準にするコンピテンシーモデルの活用が有効だったというわけです。
また、社員全員の生産性の向上が課題として上げられている昨今、優秀な社員はいくらいても困ることはありません。
コンピテンシーの考え方を活かして、その業種の“デキる社員”の行動特性を洗い出して、『コンピテンシーモデル』と呼ばれる規範となるモデルを作り、ほかの社員の育成に活用することもできます。
このことからも、生産性の向上にはコンピテンシーの考え方が欠かせないでしょう。
優秀な社員の行動特性をモデルにする
コンピテンシーを導入するには、前述した通り、評価の基準となるコンピテンシーモデルを作成する必要があります。
このコンピテンシーモデルは、業種や職種、さらには会社や部署ごとに異なるため、当事者や近い立場の人を交えて一から作っていかなければいけません。
そのために、まずは実際に業績を上げている優秀な社員たちへのヒアリングを行います。
ヒアリングの内容は、たとえば「なぜ、成果を出そうと思ったのか?」「成果を出した際に、なぜその行動を起こそうと考えたのか?」「その他の選択肢はなかったのか?」など、その人物の行動特性を探れるものでないといけません。
このヒアリングの結果と、該当者たちに共通する行動特性をもとにコンピテンシーモデルを作成していくのですが、その際に参考になるのが、必要なコンピテンシーを抽出し、体系的に整理した『コンピテンシー・ディクショナリー』です。
コンピテンシー・ディクショナリーは、『達成・行動』『援助・対人支援』『インパクト・対人影響力』『管理領域』『知的領域』『効果性』という6領域と、それぞれの領域で行動特性を具体的に定義した20項目に分類されており、それぞれの評価枠を優秀な社員の行動特性で埋めていきます。
こうしてできあがったコンピテンシーモデルを全社員に周知し、共有することで、コンピテンシーモデルは社員の行動規範となり、目指すべき目標となるのです。
ただし、コンピテンシーモデルを作成したとしても、それを効果的に使っていかないと意味がありません。
まずは自社の目指す方向を明確にし、どんなタイミングで提示していくかなど、コンピテンシーモデルをどのように活用していくかを考えてみましょう。
※本記事の記載内容は、2021年1月現在の法令・情報等に基づいています。