『健康経営』とは、従業員等の健康管理を経営的な視点で考え、戦略的に実践することです。
経済産業省によると、従業員の健康に対して、企業がさまざまな投資を行うことは、組織の活性化や生産性の向上などにもつながるとされています。
近年、この取り組みは徐々に浸透しつつあり、健康経営を押し進める『CWO(Chief Wellnes Officer)』という役職を設置する企業も出てきました。
今回は、CWOの役割や、この役職を設けることの効果について説明します。
CWOとは? 健康経営とは?
最近では、『最高経営責任者』を意味するCEO(Chief Executive Officer)が、日本企業でも当たり前の役職名になりました。
C〇〇という役職は、CEOのほかに、実務の最高責任者であるCOO(Chief Operating Officer)や、財務に関する最高責任者のCFO(Chief Financial Officer)などがあります。
そのなかで、近年、注目を集める役職にCWO(Chief Wellnes Officer)があります。
CWOは『最高健康責任者』を意味しており、福利厚生だけでなく、企業経営の視点から、従業員の健康を保持・増進するポジションにあたります(まれにCHO、Chief Health Officerと呼ばれることもあります)。
なぜ今、CWOが注目を集めているのでしょうか。
その背景には日本の高齢化や労働環境の変化があります。
日本では、労働者の高齢化に伴う労働力人口の減少が問題化しています。
この人手不足は、労働者一人ひとりの負担を増やし、長時間労働やサービス残業などの労働環境の悪化を招きました。
また、仕事のしすぎによる“過労死”も大きな問題となっており、過労が原因とみられる脳・心臓疾患にかかる労災の請求件数は、非常に多くなっています。
これらの現状を受け、政府は、健康経営の考え方を普及することを決定しました。
現在、経済産業省を中心に、顕彰制度や認定制度などの施策が行われています。
では、現在推進されている健康経営とは、どのような考え方なのでしょうか。
従来であれば、QOLの向上やワーク・ライフ・バランスなどは、福利厚生の範囲内で考慮されるという認識でした。
しかし、健康経営においては、従業員の健康保持や増進の取り組みを経営的視点から考え、戦略的に実践することで改善を目指します。
従業員の健康増進は、経営管理において重要な要素です。
たとえば、一人ひとりの疲労の軽減や睡眠不足解消、QOLの向上などは、医療費の圧縮を可能にし、企業の活性化や生産性の向上などにも寄与します。
経済産業省のWebページにおいても『企業が経営理念に基づき、従業員の健康保持・増進に取り組むことは、従業員の活力向上や生産性の向上等の組織の活性化をもたらし、結果的に業績向上や組織としての価値向上へ繋がることが期待される』と明言されているように、これからの企業の成長には、健康経営の視点が欠かせません。
そして、この健康経営の最高責任者が、CWOなのです。
CWOによる取り組みの事例を紹介!
各社のCWOは、従業員の健康を守るために、さまざまな取り組みをしています。
外食大手の吉野家ホールディングスは、2015年にCWO職を新設しました。
従業員の心と体の健康を『経営資源』ととらえる考え方で、生活習慣改善を目的とした健康指導アプリの導入や、社員専用の睡眠相談窓口サイトの開設など、健康経営に積極的に取り組んでいます。
また、吉野家と同時期にCWOを新設したタクシー会社大手の日本交通は、生活リズムが乱れがちなタクシー業界において、健康増進委員会の設置や、全従業員に対する睡眠時無呼吸症候群の簡易検査など、さまざまな健康増進施策を実施しました。
ANAホールディングスでは、CWOの指揮のもと、各グループ会社にウェルネスリーダーを配置し、健康データの分析結果から、業種特性や職種別の働き方を踏まえた課題を抽出。
病気のリスクだけではなく、日常的な観点からも健康に資する施策を行いました。
グループ全体で、健康管理・疾病予防・メンタルヘルス・安全衛生活動の強化に重点的に取り組んでいます。
家電量販店大手のビックカメラでも、社長がCWOを兼任し、先頭に立って健康経営に取り組んでいます。
従業員の健康維持促進のため、一部管理職を除く社員約4,500名を対象に『健康支援手当』を支給。
禁煙や栄養バランスのよい仕出し弁当の導入のほか、ウェアラブル端末や歩数計、体組成計、血圧計、調理家電や寝具、フィットネス・スポーツ用品を会社支援による利用促進が行われています。
このように、CWO職を設置すると、健康経営により積極的な姿勢を打ち出すことが可能になります。
企業のベースは従業員の健康です。
健康推進によって、さらなる活性化を目指すこともできるのではないでしょうか。
※本記事の記載内容は、2022年5月現在の法令・情報等に基づいています。