日本における道路橋、トンネル、河川管理施設、下水道などのインフラは、1960~1970年代の高度経済成長期に集中して建造されたものが多く、今後20年間で50年以上経過する施設の割合は、加速度的に高くなる見込みです。
現在5兆円市場ともいわれるインフラのメンテナンス市場には、需要の高まりを受け、建設業ではない異業種からの参入も相次いでいます。
新しい建物を造るより、維持・管理に移行しつつあるなかで、建設会社はどのような対応を行っていけばよいのか解説します。
加速するインフラの老朽化が社会問題に
インフラの老朽化が大きな社会問題になっています。
国土交通省の試算によると、2018年には、全国の約73万橋のうち、建設から50年以上経過する道路橋が約25%だったのに対し、2023年には約39%、2033年には約63%にのぼることがわかりました。
2033年には、日本の道路橋の半数以上が、完成から50年以上経過してしまうということです。
この傾向は、ほかのインフラにおいても同様で、2033年に50年以上経過するトンネルは、1万1,000本のうち約42%、水門などの河川管理施設は1万施設のうちの約62%となりました。
また、2021年8月に国土交通省が公表した調査結果では、橋梁で約2万カ所、トンネルでは約1,000カ所に鉄筋の露出や腐食が生じていることがわかっています。
ダムや水門、上下水道などの公益設備や、道路や鉄道などの公共交通機関も含め、インフラは国民生活の基盤です。
コンクリートのひび割れや剥がれ落ち、金属の腐食や摩耗などの老朽化は、国民の生活に深刻な影響を与えます。
2012年12月には、中央自動車道の笹子トンネルにおいて天井板の落下事故が発生し、観光バスを巻き込んで多くの死亡者や負傷者を出しました。
このようなインフラの老朽化による重大な事故を二度と起こさないためにも、建設業界は今後、官公庁と協力しながら、インフラの維持・管理に取り組んでいくことになるでしょう。
国土交通省が2018年度から今後30年後(2048年度)までの維持管理・更新費の推計を行ったところ、『事後保全』よりも『予防保全』のほうが、費用の縮減効果が大きいとしています。
事後保全とは、トラブルや不具合が起きてから対処する保全方法で、予防保全は、常時、設備や施設を点検・監視し、トラブルや不具合が起きていなくても、あらかじめ決められた耐用年数に基づいて設備を交換したり、整備したりする保全方法のことを指します。
この予防保全の考え方を基本としたインフラのメンテナンス市場は、需要の高まりとともに拡大傾向にあり、2018年度時点で約5.2兆円規模にまで成長しています。
国土交通省は、2028年度には約5.8~6.4兆円、2048年度には約5.9~6.5兆円の市場規模になると推計しています。
異業種の企業もインフラメンテ市場に参入
インフラメンテ市場の規模拡大と共に、補修工事に特化した建設会社や、インフラの点検・調査が強みの調査会社など、関連企業のなかには業績が伸びている会社もあります。
同時に、AIによる画像診断システムや、センシング技術などをインフラ点検に活かそうと、建設関連企業以外からの業界参入も増えています。
たとえば、精密化学メーカーの富士フイルムでは、自社が培ってきた画像解析技術とクラウドを活用する『社会インフラ画像診断サービス ひびみっけ』を開発。
トンネルや橋梁など、コンクリートの建造物におけるひび割れを自動検出するクラウドサービスを提供しています。
はく離や鉄筋露出、漏水などの自動検出も可能です。
また、大手総合電機メーカーの三菱電機は、8Kのラインカメラや高精度レーザーを搭載し、交通規制を行わずに走行しながらトンネル覆工面や路面を計測する“社会インフラモニタリングシステム”を開発。
計測した結果は、高解像画像データや3次元点群データとして出力することが可能です。
大手建設会社もインフラの維持・管理を効率的に行うための新技術を開発しており、市場の規模拡大を見越して、新規参入する事業者は今後も増えていくでしょう。
自社も維持・更新分野に参入したいと考えている建設関係企業は、自社技術がどのあたりのニーズに訴求できるのか、まず確認してみてはいかがでしょうか。
※本記事の記載内容は、2022年7月現在の法令・情報等に基づいています。