社会人になった後にそれぞれのタイミングで学び直し、仕事で求められる能力を磨き続けていくことが、ますます重要になっています。
このような社会人の学びをリカレント教育と呼び、特に、進化し続けるDX(デジタルトランスフォーメーション)やIT活用といった、新しい労働環境に対応するためには、主体的な学びが必要不可欠であるといえます。
そのために、企業は、従業員のリカレント教育をサポートしていく必要があります。
リカレント教育は、労働者のスキルアップやキャリア形成に役立つだけではなく、教育で得た学びを事業に還元することにもつながります。
海外と日本におけるリカレント教育推進の取り組みを紹介します。
日本はリカレント教育が遅れている?
『リカレント』(recurrent)という言葉には、『循環』や『再発』などの意味があり、リカレント教育は、『学び直し』と訳されることがあります。
入社から5年、10年を経た中堅社員が新たな労働環境の変化に適応するには、企業研修やセミナーに頼るだけではなく、主体的な学びが必要不可欠です。
そのため、企業もリカレント教育を推進する必要があります。
企業がリカレント教育の重要性を理解し、サポートしていくことで、従業員は学びの成果を社内で発揮することができます。
その結果、従業員と企業、双方の成長につなげることができるでしょう。
リカレント教育が浸透している欧米に比べると、日本では、まだまだ普及が遅れており、社会人になってから学び直しを行っている人は多くはありません。
内閣府発表の『平成30年度 年次経済財政報告(経済財政政策担当大臣報告)』の『第2-2-12図 学び直しの国際比較』によると、25~64歳の人が教育機関で学ぶ割合は、日本はわずか2.4%でした。
イギリスの16%やアメリカの14%、OECD平均の11%と比べても大幅に下回っており、国際的に見ても、日本は学び直しが少ないことがわかります。
また、同報告書では、日本のリカレント教育の課題として、高度な専門訓練の受けやすさや、ビジネススクールの質において、OECD平均を下回っている、という点を挙げています。
リカレント教育発祥の地といわれるスウェーデンでは、『コンヴックス(Komvux)』と呼ばれる生涯教育機関があります。
20歳以上の国民であれば、誰でも無償でさまざまな授業を受けることができます。
また、学び直しのために休職して大学に入学したり、より高度で専門的な教育を受けたりと、リカレント教育の選択肢も多く、自由に学べる風土が醸成されています。
学ぶ意欲のある人に国が給付金を支給したり、無制限で休暇を取得できる制度があるのもスウェーデンの特徴です。
日本企業のリカレント教育推進の取り組み
近年では、日本でもスウェーデンのように国を挙げてリカレント教育を推進しようとする動きが出てきました。
従業員のリカレント教育に取り組む企業の例を紹介しましょう。
たとえば、ソフトウェア開発会社のサイボウズは『育自分休暇制度』というユニークな制度を2012年から導入しています。
サイボウズを退職しても、最長で6年はサイボウズへの復職が可能になるというものです。
この制度を利用して、大学に入り直したり、海外留学を経験してみたりと、リカレント教育に役立てることができます。
また、不動産大手の三井不動産では、指名型、公募型の制度を設けて、大学・民間の長期ビジネス研修、私塾、グループ企業での研修などに年間数名程度を派遣しています。
外部からの刺激を通じたイノベーションの創出と、将来的なリーダー候補の育成を目的としたものです。
フリマアプリでおなじみのメルカリでは、博士課程への進学を希望する社員を対象に、学費や研究時間の確保を支援する『mercari R4D PhD Support Program』を導入しています。
ほかにも、セミナーの受講補助や書籍の購入補助などの制度があり、リカレント教育のサポートに力を入れています。
このように、さまざまな企業が取り組み始めたリカレント教育を後押しする取り組みは、将来有望な社員の離職防止や幹部候補の育成などの効果もあります。
また、中堅社員の能力を高めつつ長く働いてもらうことは、企業の生産性向上と成長の大きな助けになるでしょう。
高齢化が進み、人生100年時代といわれる現代において、リカレント教育の重要性を企業と従業員が共有し、学びやすい環境をつくることは、今後ますます重要になっていくのではないでしょうか。
※本記事の記載内容は、2022年9月現在の法令・情報等に基づいています。