長らく同じ薬を服用していたり、症状に変化がない患者に「診察は不要なので、薬だけください」と頼まれるケースがあります。
医師法では『無診察治療等の禁止』が定められており、診察をせずに処方箋を交付すると医師法違反になります。
一方で、やむを得ない事情があれば、無診察であっても薬の処方が認められることがあります。
2022年4月からは同じ処方箋を複数回利用できる『リフィル処方箋』という制度がスタートしました。
薬の処方のみを希望する患者への対応方法や、薬の処方に関する現状を紹介します。
診察ありきの処方は患者の安全のために必要
医師法では、治療の安全性を確保することを目的に『医師は、自ら診察しないで治療をし、若しくは診断書若しくは処方せんを交付』してはならないと定めています。
これに違反すると、50万円以下の罰金が科されます。
また、悪質な場合には、保険医療機関や医師免許の取り消しといった行政処分を受ける可能性もあります。
患者が慢性的な疾患で症状に変化がなさそうだからといって、医師は診察をせずに処方箋を交付することはできません。
また、患者からの求めにも応じることはできません。
もし、患者から「体調に変化がないので、診察をせずに薬だけください」と頼まれても、診察室に入ってもらい、体調に変化がないことを医師の目線で確認してもらいましょう。
このときに大切なのは、患者への対応の方法です。
薬をもらうためだけに来院・受診しなければならない患者の苦労や大変さに共感するとともに、診察しないで薬を処方することは法律違反になり、診察はあくまで患者の安全のためであることを理解してもらう必要があります。
毎日のように服用している薬でも、何らかの要因で副作用が出る可能性はゼロではありません。
また、症状に変化がないのであれば、医師は薬の量を減らしたり、薬の変更を検討することもあるでしょう。
そのためには診察が不可欠であることを丁寧に説明する必要があります。
患者の気持ちに寄り添いながら説明することで、信頼関係を損なうことなく、納得してもらえるでしょう。
代理受診とリフィル処方箋とは?
処方せんを交付する際は、原則として患者本人の診察が必要であり、いわゆる『代理受診』は認められていません。
しかし、診療報酬制度には『投薬は本来直接本人を診察した上で適切な薬剤を投与すべきであるが、やむを得ない事情で看護に当たっている者から症状を聞いて薬剤を投与した場合においても、再診料は算定できるが、外来管理加算は算定できない』という表記があります。
つまり、やむを得ない事情があれば、患者本人ではなく、看護している家族などから症状を聞き、その家族に処方せんを交付することが、想定されているということです。
ただし、これはあくまで例外的な措置であり、代理受診は認められていないことを踏まえておきましょう。
家族であっても患者と同じように診察室に入ってもらい、話を聞く必要があります。
病院側は、たとえば『前日まで相当期間にわたって診療を続けてきた遠隔地に居住する患者で、症状が安定していて検査や処置の不要と考えられる場合に限定する』など、代理受診に関するルールをあらかじめ決めておきましょう。
通院の負担軽減や医療の質の向上などを目指して、2022年度の診療報酬改定により、4月から『リフィル処方箋』が導入されました。
この制度は、症状が安定している患者に限り、一度、交付された処方せんを決められた期間および回数内であれば、最大で3回まで反復利用できるというものです。
ただし、一部の向精神薬や新薬など、投与量に制限がある薬や湿布薬は、リフィル処方箋の対象外となります。
患者にとっては、薬を受け取るための2度目と3度目の受診が不要になり、通院の負担が軽減されます。
医師にとっても業務負担が軽減されるため、患者一人ひとりの診察時間を増やすなど、医療の質の向上が期待できます。
また、医師にとっても患者にとっても、他者との接触機会が減るため、コロナなどの感染症リスクも軽減されるでしょう。
一方で、患者の来院が減ることによる医療機関の減収や、患者の病状の変化や過剰服用を見逃すリスクが高くなることが考えられます。
リフィル処方箋制度は、医療にかかわるさまざまな人にとってメリットが期待できる一方、患者の健康管理や医療事故防止のために、これまで以上に関係者間の連携が必要となります。
新制度の導入を医療の向上につなげられるよう、状況を注意深く見守り、よりよい運用・改善を目指していきましょう。
※本記事の記載内容は、2022年11月現在の法令・情報等に基づいています。