労働者派遣法では、派遣先の企業が、派遣労働者を事前に面接することが禁止されています。
しかし、事業所訪問(職場見学)については、実施することが可能です。
この2つは一見同じに見えますが、なぜ、事業所訪問は許されているのでしょうか。
今回は、こうした事前面接と事業所訪問の違いや、派遣労働者を受け入れる際の法的な決まりについて、説明します。
面接は『労働者供給事業』に該当する
派遣先企業における面接と訪問は、言葉のうえでは似たようなものに感じられるかもしれませんが、派遣労働者を選別・特定する目的で対面するかどうかに違いがあります。
法律上、派遣先の企業は、派遣社員を選別することはできないとされています。
この根拠は、労働者派遣法第26条6項にある『労働者派遣の役務の提供を受けようとする者は、労働者派遣契約の締結に際し、派遣労働者を特定することを目的とする行為をしないように努めなければならない』という定めに基づいています。
ここにある『労働者派遣の役務の提供を受けようとする者』とは、派遣先の企業のことです。
『派遣労働者を特定することを目的とする行為』には、面接のほかに、実技試験や適性テストの実施、履歴書の提出の要求、性別や年齢の限定などが含まれています。
一方、事業所訪問は、『派遣労働者と派遣先とのミスマッチを防ぐために行うもの』です。
派遣社員が、就業する職場を事前に訪問して、職場環境や業務内容を確認するための顔合わせであり、『派遣労働者を特定する目的』ではないため、許可されているのです。
もちろん、この事業所訪問中に、派遣労働者の選考を目的とした面接などを行ってはいけません。
では、派遣労働者の選考が禁止されているのはなぜでしょうか。
理由は二つあります。
一つは、派遣元と派遣労働者の関係です。
労働者派遣制度は、派遣元の企業が派遣労働者の雇用主としての責任を負うことになっており、派遣先が必要とする人材かどうかを判断して、派遣を行うのが派遣元の役割でもあります。
派遣元と派遣労働者が雇用関係にあるにもかかわらず、派遣先が派遣労働者の面接を行ってしまうと、派遣先と派遣労働者との間に雇用関係が成立し、職業安定法で原則禁止されている『労働者供給事業』に該当する可能性があります。
もう一つは、派遣先が面接をすることによって、職業能力以外の要素である容姿や年齢、性別などに基づいた選別が行われる可能性があり、派遣労働者の就業機会が不当に狭められることを防ぐためです。
しかし、派遣労働者への事前面接や実技試験を行ったことがある会社も存在しており、労働者派遣法が完全には遵守されていないという実態が明らかになっています。
ミスマッチを防ぐための訪問は推奨
労働者派遣法によって禁止されている派遣労働者への事前面接ですが、一方で、派遣先への事業所訪問は推奨されています。
派遣元は派遣労働者へ業務の内容を伝達する義務があります。
しかし、他社である派遣先の業務を完璧に伝えることは難しいですし、それ以前に派遣元と派遣先の業務に関する認識の違いがあるかもしれません。
派遣先と派遣労働者の、業務に関するミスマッチを防ぐ意味でも、派遣労働者が事前に派遣先の事業所を訪問し、業務についての理解を深めることは、とても大切なことです。
また、派遣労働者にとっては、自身の働く職場になるわけですから、派遣先の事業所を見て、環境や雰囲気を確認しておきたいのは当然だといえます。
派遣労働者のためにも、派遣先の企業は、事業所訪問を受け入れる必要があるのです。
ただし、繰り返しになりますが、訪問を受けた際にも当然、選別・特定する行為をしてはいけません。
たとえば、以下のような質問は禁止です。
●年齢や家族構成、出身地
●学歴
●前職の社名や退職理由
会社訪問の際は、その人の能力や知識、スキルに関する質問だけに留めることが大切です。
また、派遣労働者の事業所訪問は、空いているポストが1つであれば、1回につき1人までしか受け入れてはいけません。
たとえば、1つのポストに対し、3回訪問を受け入れたり、複数の派遣労働者による訪問を受け入れたりすることは禁止されています。
さらに、事業所訪問は、派遣労働者と派遣先、そして派遣元の三者が同席しなければいけません。
派遣労働者と派遣先だけの事業所訪問は、事前面接とみなされることがあるので、注意が必要です。
そして、事業所訪問の実施後は派遣元と派遣労働者が、実際にその職場で働くかどうかを判断します。
この際、派遣先の意向による派遣の中止はできないことになっており、訪問の結果、派遣労働者が派遣を希望しなかったり、派遣元が派遣労働者の能力が業務遂行の基準に達していないと判断したりする場合にのみ、派遣は中止になります。
このように、事業所訪問と事前面接ははっきりと区別されるもので、派遣先企業の人事部は、法律を守る必要があります。
万一、事前面接を行ってしまうと、労働者派遣法違反によって行政指導の対象になり、場合によっては、派遣元が雇用主としての責任を問われることになる可能性もあります。
派遣先企業は、以上のルールをしっかり認識したうえで、積極的に事業所訪問を受け入れていきましょう。
※本記事の記載内容は、2021年6月現在の法令・情報等に基づいています。