コロナ禍の影響で、社会全体がこれまでの働き方を見直そうとするなか、美容業界ではそもそも人材がなかなか定着しないという問題を抱え続けています。
離職の理由はさまざまですが、勤務時間の長さ、給料が少ないことへの不満、休暇の取りづらさなど、待遇面の問題は大きな理由の一つとなっています。
今回は、従業員が「長く働きたい」と思える職場にするために、どのような点を改善したらいいかを考えていきます。
労働環境を見直し、才能を発揮しやすくする
厚生労働省が発表した『令和2年雇用動向調査』によると、美容室を含める生活関連サービス業に従事する人の離職率は、18.4%でした。
これは、宿泊業・飲食サービス業の26.3%に続いて高い離職率となっています。
日本の労働市場は縮小化傾向にあるといわれています。
それぞれの業界に問題はあり、人手不足はどこの業界にとっても課題といえます。
では、美容業界における人手不足の要因にはどのようなものがあるのでしょうか。
たとえば、世間では休日となっている曜日や時期が、美容室の“稼ぎ時”となるため、土日祝日に働くことは当たり前になっていることです。
そうすると、美容室で働く人は家族や友人と予定が合わせづらくなります。
また、最近ではコロナ禍の影響で売上げが下がったり、接客にも気をつかう場面が増えることから、働く人にとっては心理的なストレスが増す一方となっています。
また、美容師になってからのキャリアアップのスタイルがやや特殊であることも、スタッフの離職に拍車をかけています。
入社後はアシスタントから始め、一人前のスタイリストになるまで経験と勉強の時間を要します。
そのため、仕事への手ごたえをなかなか感じられず、成長する前に挫折してしまう人も少なくありません。
採用する側は、新人の技術の向上に力を注ぐのはもちろん、モチベーションの面でもサポートする必要があります。
やる気や想いがあり、伸びしろのある人材はもちろん、なかなか仕事を覚えられずに戸惑っている人に対しても、人間力を養うつもりで精神的フォローをしていきましょう。
次に、一般的に『離職のきっかけになりやすい』といわれる業務について説明します。
美容業界において、「仕事を辞めたい」と思うきっかけの一つに、“拘束時間の長さ”があげられます。
先に述べたように、美容師は、通常の接客以外にも、技術の取得に練習時間が必要です。
事業者は、スタッフがトータルで1日のどれくらいの拘束時間になっているのかという現状に目を向ける必要があります。
じつは、美容業界の拘束時間の長さについては、近年、特に問題視されています。
ある店舗では、従業員の1日の拘束時間が11時間にも達し、経営者が、労働基準法違反で書類送検された事例もあります。
従業員の休憩時間を考慮せず、1人でも多くの客を少ないスタッフでこなそうとする経営方針であったために、従業員は昼食もとらずに業務をこなしていたのです。
少々極端な例ですが、こうした働き方をさせることは従業員の心身の健康にもよくありません。
また、平均賃金が低いことも問題の一つです。
経営上、賃金アップが難しい場合、給与面以外でモチベーションを高める工夫もしていく必要があります。
拘束時間が長い、給料が低い、そのうえ家族や友人と過ごしたい休日まで朝から晩まで働かなければならないとなれば、仕事を辞めたいと思うのも当然なのかもしれません。
業界全体の問題とされていることや、現場の声を放置すれば、将来ある若者たちが、次々と退職してしまう事態にもつながります。
退職者が出ることを防ぎたければ、従業員へのヒアリングを行って、職場環境の改善に取り組んだり、キャリアアップの仕組みを整えたりするなど、従業員の不満・心配を軽減する努力は欠かせません。
離職につながる問題にきちんと対処するため、従業員へ匿名アンケートを実施している店舗もあります。
自店に離職が多いか少ないかにかかわらず、業務環境の改善はつねに考えていく必要があるでしょう。
そして、万一、「辞めたい」と相談された場合は、時間をとって原因をしっかり聞くようにしたいものです。
家庭の事情でやむを得ない退職希望なのか、または、先述したような業務上の不満が理由なのかによって、対処の仕方が変わってきます。
その人が退職したいと思った理由を知って、しっかり受け止めることで、長く働きたいと思ってもらえる職場にしていくことが大切です。
※本記事の記載内容は、2022年3月現在の法令・情報等に基づいています。