近年は、医療現場においてメンタルヘルスの重要性が再認識されています。
医療従事者がメンタルに問題を抱えたまま業務に従事すると、不注意な行動が増え、ミスを起こしてしまうとも限りません。
本人はもちろん、病院側も従業員のメンタルヘルスには気を配っておく必要があります。
そこで今回は、現場で働く医療従事者にメンタルヘルス向上の取り組みを紹介します。
医師のメンタルヘルスに関する現状
厚生労働省が発表した2020年の『過労死等の労災補償状況』によると、精神障害の請求件数の多い業種のなかで、医療業は労災の請求件数が209件と、社会保険・社会福祉・介護事業に次ぐ多さでした。
その一因として、労働時間が長期化する傾向にあり、休憩や休日も少ないことが多く、夜勤などで睡眠時間も短くなりがちな労働環境があげられます。
最近では、そのような状況を改善するために、これまで応召義務を理由に対象外とされてきた、医療従事者の時間外労働について見直しが行われました。
また、2024年度からは、勤務医に対しても働き方改革関連法が適用され、すべての医師(A水準)、地域医療暫定特例水準(B水準)、集中的技能向上水準(C水準)の3つの区分に応じて時間外労働上限規制が設けられる予定です。
ただし、医療従事者のメンタル不調の要因としては、労働環境だけでなく、患者への告知や死、医療過誤への恐怖など心理的な要因も関係しています。
それに加えて、完璧主義や責任感の強さなど医療従事者に多い性格傾向もあげられます。
予防策の一つとしては、相談窓口の設置や、外部カウンセラーとの連携などが効果的です。
メンタル面の悩みは、同僚や上司にはなかなか話しづらいものなので、第三者の立場から相談にのってくれる外部人材を活用するとよいでしょう。
たとえば、厚生労働省も取り上げたEAP(Employee AssistanceProgram)というメンタルヘルスの不調を抱えている従業員をケアするプログラムがあります。
アメリカでは多くの企業が、EAPサービスを提供する会社と契約しており、従業員の心の健康管理を支援しています。
メンタルヘルスをケアする15のアクション
医療従事者のメンタルヘルスを保つには、労働環境の改善が必須です。
労働時間を守り、病院として可能な範囲で医療従事者の負担を減らしましょう。
たとえば、日本医師会の『勤務医の健康支援に関する検討委員会』では、2015年に、勤務医自身からの要望が強い対策や、委員会が従来から強調してきた事項(体制・クレーム組織対応・相談窓口)等をもとに『勤務医の健康支援のための15のアクション』を作成しています。
(1)勤務医負担軽減の責任者を選任して委員会等を設置している
(2)診療補助者(医療クラーク)を導入し、医師は診療に専念する
(3)当直の翌日は休日とする
(4)予定手術前の当直・オンコールを免除する
(5)採血、静脈注射及び留置針によるルート確保を医師以外が実施する
(6)退院・転院調整について、地域連携室等が組織的に対応している
(7)医療事故や暴言・暴力等に施設として組織的に対応する
(8)医師の専門性確保とキャリア支援のため、学会や研修の機会を保証する
(9)快適な休憩室や当直室を確保する
(10)短時間雇用等の人事制度を導入して、就労形態を多様化する
(11)地域の医療施設と連携して外来縮小等を行い、特定の医師の過剰な労働負担を減らす
(12)大学や基幹病院の医局、医師会、自治体等の協力を得て、病院の医師確保支援を進める
(13)時間外・休日・深夜の手術・処置実施に応じて医師に手当を支給する
(14)女性医師が働き続けるために、柔軟な勤務制度、復帰のための研修を整備する
(15)社会保険労務士等の労務管理の外部専門家を活用する
この15項目について、検討委員会では『メンタルヘルス(うつ)指標』『自殺リスク指標』『労働生産性指標』『勤務継続意思』という4つの観点から、勤務医を対象としたアンケート調査を行っており、14のアクションが4指標全てに対して有意な改善効果を示したと公表しています。
この結果は、健康支援が、メンタルヘルスの維持だけでなく、生産性を上げ、人材の確保にも役に立つということを示しています。
上記の項目を参考にしながら、従業員のメンタルヘルス改善に取り組んでみてはいかがでしょう。
※本記事の記載内容は、2022年5月現在の法令・情報等に基づいています。