近年の研究により、口腔内の状態は全身の健康に大きく関係することがわかっています。
特に高齢者においては口腔内の健康維持がより重要といわれ、病院での治療と併せて、口腔内ケアや歯科治療を行うための医科歯科連携が推進されています。
しかし、現状ではまだ発展途上といえます。
今回は、医科歯科連携の具体例を挙げながら、その意義や現状について紹介します。
口腔内の健康と体の健康の相関関係
歯や口腔の健康は、全身の健康と関連が深く、たとえば歯周病と糖尿病などは相関関係にあり、互いに悪い影響を及ぼすことがわかっています。
「歯の数が少ないほどアルツハイマー型認知症のリスクが上昇する」「口腔ケアを行った要介護者は、行っていない要介護者に比べて肺炎発症率が低くなる」などのデータもあり、認知症予防や健康の維持といった観点からも、口腔ケアの重要性は増しています。
しかし、日本では医療ケアを受けている人が、同時に歯科関連のケアを受けられるような連携があまり進んでいないのが実情で、病気に関しては病院、歯や口腔ケアのことは歯科医院で、と認識している人が大多数を占めています。
厚生労働省が2017年に発表した『医科歯科連携の取り組み』によると、『医師と歯科医師の連携状況』について、「病院内または院外の歯科医師と連携して周術期口腔機能管理に関する情報提供を行っている」と答えた医師の割合は、全体のおよそ30%ほどでした。
病床数が多いほど周術期口腔機能管理に関する連携を行っている割合は高くなるものの、まだ医科歯科連携については、進展の余地があるといえます。
まずは連携ネットワークを構築する
次に、医科歯科連携を実施している病院の実例を紹介します。
その一つが、がん治療における医科歯科連携です。
がん治療に使われる抗がん剤の種類によっては、副作用で口内炎などの口腔内のトラブルが起き、その口内炎が次の感染につながり、結果的に、治療スケジュールに変更が生じるケースもあります。
口腔内のトラブルは、治療をスムーズに進めるためにも必要なのです。
そこで、医科歯科連携に取り組む病院では、医師によるがん治療と併せて、歯科医師による術前と術後の口腔内診査や歯科治療、歯科衛生士による口腔内清掃や口腔衛生指導などを行うケースがあるのです。
実際に歯科医師個人が医師・病院と連携するには、自治体が行っている乳幼児健康診査や講演会・勉強会など、医師と話す機会があれば活用したり、地域の歯科医師会や医師会に働きかけるようなネットワークの広げ方も有効といえます。
また、診療所や訪問看護ステーション、保険薬局に地域のケアマネージャー、介護施設や行政とのつながりを持つことも重要です。
より範囲を広げて、広い範囲に取り組みを周知していけるとよいかもしれません。
一人ではネットワークの構築や連携体制の整備にも限界があるため、病院側にも連携に積極的な医師を見つけ、共に協力しながら、地域における医科歯科連携を実現させるのも、手段の一つといえるでしょう。
※本記事の記載内容は、2022年5月現在の法令・情報等に基づいています。