2019年4月からの『働き方改革関連法』の施行後、医師については時間外労働の上限規制が猶予されてきましたが、2024年4月からは医師にも規制が適用となります。
これにより、長時間労働が常態化していた医師の働き方の改善につながることが期待されていますが、コロナ禍により医療現場が混乱し、国民の不安も増している現状においては、十分な医療体制が構築できなくなることを懸念する声もあがっています。
今回は、施行予定の規制内容とともに、医師の働き方改革について考えていきます。
医師の自己犠牲に支えられている日本の医療
これまで日本の医療現場は、医師の長時間労働によって支えられてきました。
医師の労働時間は群を抜いて長く、20代~30代の若い医師を中心に、多くの医師が過労死ラインを超える労働を強いられており、健康への不安を抱えながら医療活動に従事しています。
厚生労働省の『医師の働き方改革に関する検討会』の報告書では、日本の医師のうち『自殺や死を毎週または毎日考える』医師の割合は3.6%、『抑うつ中等度以上』の症状がある医師の割合は6.5%であることが取り上げられています。
また、『ヒヤリ・ハットを体験している』医師の割合は、76.9%にも及んでおり、こうした現実を改善しない限り、医療現場が崩壊していくことが懸念されています。
医師が長時間労働になってしまう原因は、昼夜問わず患者の治療を行わなければならない業種の特殊性はもちろん、全体の医師数に比べて病床数や患者の受診回数が多いことがあげられます。
また、『患者のため』『医療水準向上のため』という使命感から自己犠牲を払ってしまっていることなども一因でしょう。
近年は、コンプライアンスの観点からも、患者へのきめ細かな対応を求められるうえに、コロナ禍での医療現場の逼迫(ひっぱく)も合わさって、医師への負担は増すばかりです。
このような現状のなか、2024年4月1日からは医師への時間外労働規制が導入されます。
これまでは、業務の特殊性から医師は時間外労働の上限規制の対象外でしたが、2019年4月に施行された『働き方改革関連法』にあわせて、2024年度からは医師にも法が適用されることになっています。
ただし、規制の具体的なあり方については議論が重ねられており、一般的な業種とは異なり、医療現場の現状に合わせた規制が設けられる予定です。
医師に対する時間外労働の上限規制の内容
法の施行後は、原則として月45時間・年360時間を超える残業が規制の対象になりますが、労使の合意があれば、年960時間・月100時間まで時間外労働(休日労働を含む)を行うことが認められます。
そして、以下の健康確保措置を講じることが努力義務とされます。
●月の上限を超える場合には産業医による面接指導を行う
●連続勤務を原則28時間までとする
●勤務後、次の勤務時間までに9時間のインターバルを確保する
●連続勤務制限やインターバルの確保ができなかった場合は代償休息を付与する
さらに、地域医療のためにやむを得ない場合の『地域医療確保のための暫定特例』と、研修医などを対象とした『集中的技能向上のための特例』では、年1,860時間・月100時間の時間外労働(休日労働を含む)が認められます。
この場合は、先ほどあげた健康確保措置が義務となります(研修医については連続勤務制限を徹底し、代償休息は不要とする)。
ただし、これらの時間外労働の上限規制の対象となるのは、医院と雇用関係にある勤務医だけとなります。
医師を雇用している医院の経営者は、2024年4月の施行に向けて、勤務医の労働時間管理や、残業時間の削減を今のうちから進めていかなければいけません。
具体的には、ICカードやタイムカードなどによる医師の在院時間の正確な把握や、36協定の定めを超えて時間外労働をさせていないかの点検、医師の業務の一部を医師以外の医療従事者に任せる『タスクシフティング(業務の移管)』の推進などです。
ほかにも、連続勤務制限を考慮した退勤時刻の設定や、勤務間インターバルの設定、負担を減らすための複数主治医制導入の検討など、勤務医の時間外労働を削減する取り組みも求められます。
同時に、たとえ医師であっても医院の経営者や役員は時間外労働の上限規制の対象とはならないため、個々で自身の健康管理を徹底していく必要があります。
昔から“医者の不養生”という言葉があるように、忙しさに追われて自身の健康管理がずさんになってしまう医師も少なくありません。
勤務医に限らず、すべての医師が自身の健康に気を配れるような仕組み作りが求められています。
※本記事の記載内容は、2021年7月現在の法令・情報等に基づいています。