介護業界にとって『人材不足』は大きな課題であり、この課題を解消するには従業員の離職予防と定着率向上を図る必要があります。
これに対して効果的な改善策の一つが、研修や教育訓練といった『人材育成』に重点的に取り組むことですが、職員によっては「拘束される時間が増えた」と感じてしまう可能性もあります。
研修や教育訓練の内容は介護事業所によってさまざまであり、内容によって、労働時間に含まれるものと、含まれないものがあります。
今回は、人材育成における労働時間の捉え方について解説します。
これは教育訓練になる? 4つの事例を紹介
就業時間中のOJTに費やされた時間は、当然、労働時間として取り扱う必要があります。
たとえば、『始業前の朝礼やミーティングの時間』『終業後に社外への研修に参加する時間』『社内に残って資格取得のために勉強する時間』などは、各々のケースに応じて適切な対応をしなければなりません。
この対応を間違えると、従業員の事業所に対する信用が低下し、離職につながったり、労務トラブルに発展することもあります。
そこで、よくある事例を通して適切な対応方法を見ていきましょう。
事例①:毎朝、始業時間前に出社させ、10~20分ほど朝礼とミーティングを行う
このケースでは、賃金の支払いをする必要があります。
労働基準法において『労働時間』とは、『労働者が使用者の指揮命令下に置かれている時間』とされています。
時間の長短にかかわらず朝礼とミーティングのために出社を義務付けている場合、その時間は『労働時間』に該当するため、賃金を支払わなければなりません。
始業時間後に朝礼・ミーティングを行うよう変更するか、該当する時間について時間外労働手当を支払うようにしましょう。
事例②:終業後や休日に外部のセミナーや研修に参加する時間
まず、社外セミナーや研修への参加が義務付けられているものか、自由参加かによって判断します。
強制的に義務付けられている場合、スタッフが参加している時間は『労働時間』にあたるため、終業後や休日に関係なく賃金の支払いが必須となります。
この場合、1日8時間、1週40時間という原則的な法定労働時間を超える場合は、割増賃金の支払いも必要となります。
また、強制参加を義務づけていなくても、不参加によって、人事評価で不利な査定や評価があってはいけません。
懲戒処分を科す場合は、実質的には強制参加と同じ事になるので、『労働時間』であると判断します。
事例③:終業後、施設に残って資格取得の勉強や介護の知識を深めるための勉強を行う時間
この場合は、自主的に勉強する時間と考えられますので、賃金を支払う必要はありません。
『労働時間』は使用者が労働者に指揮命令を行った場合に認められるものです。
自己啓発のために自主的に残って勉強している時間は、『労働時間』に該当しないということになります。
ただし、残って勉強している途中、施設利用者のお世話をしたり、業務日誌の作成などを行っている場合は注意が必要です。
事業主がそのことを知って、あらかじめ業務を行わないように注意喚起している場合は『労働時間』に該当しませんが、見て見ぬふりをしている場合は、労働基準法違反に触れる可能性がある場合があります。
常時使用している労働者が10人以上いる場合は、就業規則を作成して労働基準監督署へ届出を行う義務があります。
その場合、『始業・終業時間』『時間外労働・休日労働』等については、就業規則に明確に定めておかなければなりません。
介護事業所の多くは定期的な研修や教育訓練を実施しています。
これらの所要時間に対する取り扱いを明確に示し、スタッフに周知しておかないと、後々トラブルに発展する可能性があります。
人材不足ばかりに気を取られがちですが、今一度、足元から見直してみることが、問題解決のために重要なポイントとなるのではないでしょうか。
※本記事の記載内容は、2022年1月現在の法令・情報等に基づいています。