「やりがいのある仕事をしたい」とは、誰しもが思うことではないでしょうか。
近年、『やりがい』は、仕事のモチベーションを支える動機として重視されるようになりました。
一方で、企業がその風潮を利用し「やりがいのある仕事です」と求職者を誘って、不当な低賃金労働や、長時間労働をさせてしまうケースも見受けられます。
今や『やりがい搾取』は、ハラスメントや不当解雇などと並ぶ労働問題の一つとなっているのです。
今回は、やりがい搾取が起きる理由や、やりがい搾取の実例について説明します。
仕事のやりがいは大切だが、支払いは必須!
やりがいは給与や賞与のように目に見えるものではありませんが、仕事をやり遂げたことに対する報酬のようなものといえます。
仕事にやりがいがあることによって、充実感や満足感、達成感を得ることもできるでしょう。
経営側にとっても、従業員がやりがいを感じていることは、喜ばしいことです。
前向きに仕事に取り組んでもらえますし、目標を達成しようと、新しい仕事にも意欲的にチャレンジしてくれるでしょう。
また、「こんなことをしてみたい」といった意見が社内から活発に出てくる土壌をつくることもできます。
従業員が、仕事にやりがいを感じていると、不満やストレスも小さくなりますし、成長や自己実現の一助としても有益です。
しかし、「やりがいがある仕事をしたい」という労働者の気持ちを悪用する事業主がいることも事実です。
最近になって、経営者が支払うべき賃金・手当の代わりに労働者にやりがいを強く意識させることで、本来支払うべき賃金の支払いを免れようとする、『やりがい搾取』が社会問題になっています。
本来、仕事にやりがいを感じるかどうかは、従業員の個人的な感覚になります。
しかし、企業側が「やりがいのある仕事だから」と、やりがいを強調し、釣り合わない対価や労働時間で従業員に労働を強いるケースが後を絶ちません。
特に「自分の能力を発揮したい」「自分を認めてほしい」と考える若年労働者が集まる業界において、やりがい搾取は多いといわれています。
憧れられる業界に多い、やりがい搾取
やりがい搾取によって、正当な労働の対価を支払わなかったり、不当な長時間労働を強いたりする行為は、当然のことながら労働基準法違反です。
2021年末には、兵庫県の人気洋菓子店が、過労死ラインを超える月100時間超の時間外労働を従業員に課していたとして、労働基準法違反で是正勧告を受けました。
月の時間外労働が300時間を超える従業員もおり、典型的なやりがい搾取の事例として、大きなニュースになりました。
また、アニメ業界でも、やりがい搾取が根深い問題となっています。
アニメ制作会社の制作進行を担当していた男性が、2019年に未払いの残業代を求めて、所属していた会社に対し、支払いをもとめる訴訟を起こしました。
このようなケースのほかにも、さまざまな業界で、やりがい搾取が横行しているのが現状です。
そのうえ、「やりたいことができるなら」「夢を叶えるためなら」と、企業のやりがい搾取に甘んじて、業界に入る労働者も後を絶ちません。
その結果、いつまでもやりがい搾取が続いてしまう構造があるのです。
やりがい搾取から利益を得ないために
当然、やりがい搾取はあってはならない行為です。
事業において、やりがい搾取で利益を得たりすれば、社会的な信用の失墜につながります。
やりがい搾取にあたる行為は、以下のようなものだといわれています。
●任意の業務にもかかわらず、強制的にプロジェクトに参加させる
●任意の業務にもかかわらず、拘束して、指揮命令下で業務をさせる
●対価が発生する業務にもかかわらず、正当な対価を支払っていない
●研修やインターンシップにもかかわらず、従業員と同等の業務をさせる
各々のケースによって、やりがい搾取になるかどうかは判断が分かれますが、経営者が「やりがいを強調して押し付けない」「会社側が一方的に利益を受けない」などの注意点を心がけることで、ある程度は防ぐことができます。
やりがい搾取は違法行為であり、事件になれば“ブラック企業”と広く認知されてしまう可能性もあります。
自社の社会的信用を守るためにも、裁量権のある管理職への教育を徹底しておく必要があります。
※本記事の記載内容は、2022年4月現在の法令・情報等に基づいています。